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マンション売却で確定申告を「する」「しない」の見分け方

確定申告が必要なのは「譲渡所得」が出た場合
マンション売却で確定申告が必要なのは、「所得」がでた場合です。要は、マンションを売ったことにより利益が生じた場合のみ、確定申告が必要になります。 ただし、たとえば2,500万円で買ったマンションが3,000万円で売れたら確定申告が必要か?といえば、必ずしもそうではありません。不動産売却では、以下の計算式で「譲渡所得」がプラスになった場合のみ、利益が出たと見なされます。 譲渡所得 = 譲渡収入金額 - 取得費 - 譲渡費用
譲渡所得の計算方法については、後述で詳しく解説します。「不要」でも確定申告「した方がいい」ケースがあるので注意!
マンション売却によって利益が出なかった場合、法律上は必ずしも確定申告をする必要はありません。 しかし、利益がでなかった場合でも、実は確定申告によって恩恵を受けられる可能性があります。 マンション売却で「損失」が生じた場合、必要な要件を満たしている上で確定申告をすると、給与所得などと合算して損益通算をすることができます。その結果、すでに納めた税金が還付金として返ってきたり、納める税金が安く済んだりする効果が見込める場合があります。 ▼確定申告が不要なケースを知りたい方は、こちらの記事を参照ください。確定申告時期はマンション売却の翌年

マンションを売却して確定申告しなかった時のリスク
譲渡所得が出て確定申告の必要があるのにも関わらず、その手続を行わなかった場合は「延滞税」という本来払わなくてもいい税金が発生しかねません。 確定申告の目的は、適正に税金を支払うことにもあります。この時に確定申告をしないと、延滞税が発生するだけでなく、適正な譲渡益を報告していないことより、税額がより高く見積もられても仕方がないということにもなりかねません。 経費の計上や控除特例を適用させて確定申告を行えば、より正しい譲渡益の申告が可能となります。さらに、結果としてマンションを売った売却益のまま計算するよりも、課税の負担が減ります。前項でも触れましたが、損失であった場合も税金還付が受けらえる可能性があるため、確定申告した方が良いケースも多いものです。 また、投資用、事業用だけが確定申告をするものだと思う人もいるかもしれませんが、個人の居住用のマンション売却時も同様に確定申告が必要です。 ▼マンションを売却した際にかかる税金を詳しく知りたい方はこちらの記事を参照ください。あわせて読みたい
- マンションを売却した後の確定申告は、譲渡所得(売却の利益)が出た時に必要。
- マンションを売却した後に、確定申告をしないと脱税になるというリスクがある。
- ただし、利益が出ない場合でも節税や税金還付を受けられる特例など、確定申告をするメリットがあるため、確定申告の方法を押さえておくことが賢明。
確定申告の手続きの流れと必要な書類

確定申告の流れは大きく4つのステップがあります。
確定申告の手続きの流れ
- まずは、確定申告に必要な書類を集めることから始めましょう。
- 譲渡所得税の計算をする
- 書類を作成する
- 税務署での手続きをする
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次に必要書類を見ていきましょう。
必要な書類
利益が出た場合の確定申告に際して用意する書類は、自分で用意するものと税務署から調達するものに分けられます。自分で用意する書類
自分で用意する書類は、以下の3つです。- マンションを売却した際の売買契約書
- マンションを購入した際の売買契約書
- 仲介手数料や印紙税などの諸経費の領収書
税務署から調達する書類
- 確定申告書B様式
- 分離課税用の確定申告書
- 譲渡所得の内訳書
- 譲渡所得の内訳書
▼より詳しく確定申告に必要な書類を知りたい方は下記の記事を参照ください。
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【税額の算出方法】手順1.「譲渡価格」を算出

譲渡所得 = 譲渡価格 - 取得費 - 譲渡費用
譲渡所得の算出式は、上記の通りです。 この時点で用語の意味がわからなくても大丈夫です。ここから分かりやすく解説します。まず計算式の「譲渡価格」ですが、これはマンション売却によって得た金額の総額です。 具体的には、以下の計算式となります。
譲渡価格 = マンションの売却金額 + 固定資産税・都市計画税清算金
「マンションの売却金額」は、そのままマンションを売った金額です。 そして「固定資産税・都市計画税清算金」とは、売主が前払いして納税した固定資産税・都市計画税を日割り計算して清算した金額となります。 たとえば、1年分の固定資産税・都市計画税10万円を売主が前払いしており、6月末に買主にマンションを引き渡した場合、日割り清算した5万円が買主から売主に支払われます。この金額をマンションを売った金額に足したものが、「譲渡価格」です。 なお、売却時にはマンションの管理費や修繕積立金を日割り清算したものを買主から受領することがありますが、これは譲渡価格に含めません。【税額の算出方法】手順2.「減価償却費」や「経費」から「取得費」を算出
譲渡所得 = 譲渡価格 - 取得費 - 譲渡費用
さて、上記計算式の「譲渡価格」の算出方法がわかったところで、続いて「取得費」の算出に移ります。 取得費を簡単にいえば、売却したマンションを取得した費用です。しかし、たとえば30年前に購入した金額をそのまま使ってしまっては、経年劣化分が加味されない利益が算出されてしまいます。 そこで取得費は、取得した費用から「減価償却費相当額」を差し引きます。さらに、取得にかかった「経費」も同様に差し引きます。 つまり、「取得費」は下記計算式で算出します。 取得費 = マンションを取得した費用 - 減価償却費相当額 - 取得にかかった経費
「減価償却費相当額」の算出方法
マンションの建物部分は、経年とともに劣化するものであり、価値も落としていくものです。しかし、土地部分は経年によって劣化するものではありません。 そのため、減価償却費を算出するのはマンションの建物部分だけとなりますのでご注意ください。 減価償却費相当額(居住用マンション) = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
償却率は、建物の構造別に以下の数値をあてはめます。木造 | 0.031 |
木骨モルタル造 | 0034 |
金属造(骨格材の肉厚4mm超) | 0.020 |
金属造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | 0.025 |
金属造(骨格材の肉厚3mm以下) | 0.036 |
れんが造、石造、またはブロック造 | 0.018 |
鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
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【税額の算出方法】手順3.「譲渡費用」を算出
譲渡所得 = 譲渡価格 - 取得費 - 譲渡費用
譲渡所得を算出するための「譲渡価格」と「取得費」の算出方法がわかりましたので、あとは「譲渡費用」のみです。 譲渡費用とは、売却にかかった経費のことです。先ほど説明した取得費の経費と同様に、次のようなものが含まれます。- 仲介手数料
- 印紙税
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【税額の算出方法】手順4.「譲渡所得」を算出
譲渡所得 = 譲渡価格 - 取得費 - 譲渡費用
上記計算式の「譲渡価格」「取得費」「譲渡費用」の算出方法がわかれば、あとは計算するだけです。 ここで簡単に、譲渡所得の計算シミュレーションをしてみましょう。 モデルケース ・鉄筋コンクリート造のマンションを10年前に5,000万円で購入し、その内、建物部分の費用が2,500万円 ・取得にかかった経費は200万円 ・5,000万円で売却 ・売却にかかった経費は150万円 ・固定資産税・都市計画税清算金は5万円
まず、「譲渡価格」から算出します。 譲渡価格 = マンションの売却金額 + 固定資産税・都市計画税清算金 5,000万円+5万円=5,005万円(譲渡価格)
続いて、「取得費」を算出します。 取得費を算出するにあたっては、まず「減価償却費相当額」を出しましょう。 減価償却費相当額(居住用マンション)= 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数 2,500万円×0.9×0.015×10=337.5万円(減価償却費)
取得費の算出式にあてはめます。 取得費 = マンションを取得した費用 - 減価償却費相当額 - 取得にかかった経費 5,000万円-337.5万円-200万円=4,462.5万円(取得費)
「譲渡費用」は、売却にかかった経費なので150万円(譲渡費用)となります。 では、ここまで算出してきた譲渡価格・取得費・譲渡費用を譲渡所得の算出式にあてはめます。 譲渡所得 = 譲渡価格 - 取得費 - 譲渡費用 5,005万円-4462.5万円-150万円=392.5万円
このシミュレーションでは、譲渡所得が392.5万円と算出できました。譲渡所得がプラスになっていますので、この場合は確定申告が必須となります。 続いて、導き出した譲渡所得から税額を算出していきます。【税額の算出方法】手順5.譲渡所得から税額を算出
算出した譲渡所得に対して課税されることになりますが、税率はマンションを所有していた期間によって以下のように異なります。所有期間 | 区分 | 税率 |
---|---|---|
5年以下 | 短期譲渡所得 | 39.63% |
5年超 | 長期譲渡所得 | 20.315% |
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率
たとえば、先ほどのシミュレーションのように譲渡所得が392.5万円で、購入から10年後の売却だとすれば、譲渡所得税は以下のようになります。 392.5万×20.315%≒79.74万円マンション売却で「譲渡所得」が出たときの3つの控除特例

1.マイホーム売却の際の3,000万円特別控除特例
自分が住んでいた不動産を売却した場合に、一定の要件を満たしていることで認められる、譲渡所得から最高3,000万円の特別控除を受けることのできる特例です。認められる要件
3,000万円特別控除特例が認められるためには、以下の6つの要件を満たしている必要があります。- 自らが住んでいた不動産を売却した
- 過去2年間で当該の特例もしくは譲渡損失に関しての特例が適用されていない
- 過去2年間でマイホーム買い替えや交換に関しての特例が適用されていない
- 売却した不動産や土地において、収用などの場合の特例が適用されていない
- 災害による滅失家屋の敷地で、退去時から3年以内に売却している
- 売主と買主が、親子や夫婦などの特別に近しい関係でない
適用に必要な書類
3,000万円特別控除特例の適用には、先述の自分で用意する書類と併せて「住民票除票」を提出する必要があります。この住民票除票は、売却から2ヶ月経過後に、当該の不動産が所在する住所を管轄する役所にて受け取ることができます。控除後の税額の算出方法
3,000万円特別控除特例を受ける場合の控除後の譲渡所得税額を算出するための計算式は、以下のようになっています。 譲渡所得税=(課税譲渡所得金額(課税対象)−3,000万円)×税率
課税対象となる譲渡所得から3,000万円を差し引き、その額に譲渡所得の税率をかけた金額が譲渡所得税額となります。2.10年以上所有していた場合の軽減税率特例
売却したマンションを10年以上所有していた場合に、一定の要件を満たしていることで認められる、軽減税率の適用を受けることのできる特例です。認められる要件
軽減税率特例が認められるためには、以下の5つの要件を満たしている必要があります。- 国内にある自ら居住していた不動産を売却する、もしくは
不動産と併せてその土地も売却する - 売却した年の元日時点で当該の不動産や土地を所有している期間が10年を超えている
- 過去2年間で当該の特例もしくは譲渡損失に関しての特例が適用されていない
- 当該の不動産や土地でマイホーム買い替えや交換に関しての特例が適用されていない
- 親子や夫婦など売主と買主が、親子や夫婦などの特別に近しい関係でない
適用に必要な書類
軽減税率特例の適用には、先述の「3,000万円特別控除特例」の適用に必要な書類に加えて、当該の不動産の「登記事項証明書」を提出する必要があります。適用に必要な書類
軽減税率特例を受ける場合の控除後の譲渡所得税額を算出するための計算方法は、状況によって2パターンに分かれます。それぞれの計算式は以下のようになっています。①譲渡所得額(課税対象)が6,000万円に満たない場合 譲渡所得税=課税譲渡所得金額(課税対象)×税率(10%)
6,000万円に満たない場合は、課税対象となる譲渡所得に10%の税率をかけた金額が、譲渡所得税の額となります。②譲渡所得額(課税対象)が6,000万円を超える場合譲渡所得税=(課税譲渡所得金額(課税対象)−6,000万円)×税率(15%)
6,000万円を超える場合は、課税対象となる譲渡所得から6,000万円を差し引き、それに15%の税率をかけた金額が譲渡所得税の額となります。さらに、買い替えの場合にのみ使える、買い替え特例という特例も存在します。
3.買い換え特例
マンション売却後に、新たに住み替えるための不動産を購入した場合に、一定の要件を満たしていることで認められる特例です。認められる要件
買い換え特例が認められるためには、おおよそ先述の「3,000万円特別控除特例」や「軽減税率特例」などで挙げられたような要件に加え、以下の5つの要件を満たしている必要があります。- 当該の不動産の売却額が1億円以下である
- 購入する不動産の延床面積やが50平方メートル以上、かつ土地の面積が500平方メートル以下である
- 売却した年を挟んで3年の間に新居とする不動産を購入する、また一定期限までに入居する
- 購入する不動産が耐火建築物の中古物件である場合、築25年以内のものである、もしくは一定の耐震基準を満たしている
- 購入する不動産が耐火建築物でない中古物件である場合、築25年以内のものである、もしくは取得期限までに一定の耐震基準を満たす見込みがある
適用に必要な書類
買い換え特例の適用には、先述の確定申告に必要な書類に加えて、以下の書類を提出する必要があります。- 買換資産の明細書
- 先行取得資産に係る買換えの特例の適用に関する届出書
- 代替資産の取得期限延長承認申請書
- 売却した不動産の「登記事項証明書」
- 購入した不動産の関連書類(売買契約書など)
控除後の税額の算出方法
買い換え特例を受ける場合の控除後の譲渡所得税額ですが、まず売却額よりも購入額の方が高かった場合には譲渡がなかったものと見なされ、譲渡所得税が一切課されません。反対に、購入額よりも売却額の方が高かった場合には、以下の順で計算し算出します。- 【収入額=売却した不動産の売却額−購入した不動産の購入額】
- 【総経費=(売却した不動産の購入額+売却した不動産の売却活動経費)×(収入額÷売却した不動産の売却額)】
- 【譲渡所得(課税対象)=収入額−総経費】
- 【譲渡所得税=譲渡所得(課税対象)×税率(15%)】
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マンション売却で「譲渡損失」が出たときの2つの控除特例

マンション売却によって損失が発生した場合、同年度に発生した他の所得(給与所得など)と損益として通算することができます。
これによって、その年の税金が安くなる可能性があります。
またその年に損失を控除することができなかった場合でも、場合によっては最大3年間は繰り越すことができます。以下で控除の特例について、詳しく見ていきましょう。
ここからは、マンションを売却した際に損失が出た場合の確定申告についてご説明していきます。
冒頭触れました通り、マンションを売却した際に損失が出てしまった場合でも、確定申告をすることによって、得をするケースがあるので、より詳しくご案内していきます。
譲渡損失額の算出方法 譲渡損失の金額を算出するための計算式は、以下のようになっています。
譲渡損失額= 売却した不動産の購入額−(売却した不動産購入時の経費+売却した不動産の売却額)
売却したマンションの購入時の経費と売却額を足し合わせ、それを売却したマンションの購入額から差し引いた金額が、譲渡損失額になります。マンションを売却して譲渡所得が出ず、譲渡損失額が出た場合には、下記の2つの特例を使って、所得税や住民税などの税金の負担を軽減することが可能です。
1.買い換えなどによる譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例
居住用の不動産を買い換えるなどしたことによって譲渡損失が生じた場合に、一定の要件を満たすことで認められる特例です。認められる要件
この特例が認められるためには、以下のそれぞれの要件を満たしている必要があります。 <売却したマンションに関して>- 5年以上所有していた
- 延床面積が50平方メートル以上である
- 売却した年を挟んで3年の間に購入した
- 購入した年の大晦日の時点で、ローンが10年以上残っている
- 購入した翌年の大晦日までに入居する見込みがある
適用に必要な書類
この特例の適用には、以下のような書類を提出する必要があります。- 確定申告書
- 居住用財産の譲渡損失の金額の明細書
- 居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の対象となる金額の計算書
- 売却した不動産の登記事項証明書
- 売却した不動産の売買契約書
- 住民票の除票
- 購入した不動産の登記事項証明書
- 購入した不動産の売買契約書
- 年末時点での住宅ローンの残高証明書
- 住民票
2.特定居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例
住んでいたマンションの売却に際して譲渡損失が生じた場合に、一定の要件を満たすことで認められる特例です。認められる要件
この特例が認められるためには、売却した不動産に関して以下のそれぞれの要件を満たしている必要があります。- 5年以上所有していた
- 売買契約を結ぶ前日の段階で、住宅ローンが10年以上残っている
譲渡損失額の算出方法
譲渡損失の金額を算出するための計算式は、上述の「買い換えなどによる譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例」で紹介しているものと同じになります。マンション売却後の確定申告の方法まとめ

- マンションを売却した後の確定申告は、譲渡所得(売却の利益)が出た時に必要。
- 確定申告に必要な手順と必要書類を押さえておく。
- 確定申告をすることで税金が安くなる特例がある。
- マンションを売ったときに譲渡所得が出る人は少ないため、確定申告が必須になることは少ない。
- ただし、譲渡所得が出ない場合でも節税や税金還付を受けられる特例があるため、確定申告をするメリットがあるため、ポイントを押さえておくことが賢明。
- マンション売却によって譲渡所得が出た時の確定申告と、譲渡所得が出ていないと時の節税を受けるために行う確定申告とでは、手順と必要書類が異なる。
監修者情報:亀梨 奈美

■保有資格:住宅ローンアドバイザー
■プロフィール
大手不動産会社退社後、不動産ライターとして独立。不動産会社在籍時代は、都心部の支店を中心に契約書や各書面のチェック、監査業務に従事。プライベートでも複数の不動産売買歴あり。不動産業界に携わって10年以上の経験を活かし、「わかりにくい不動産のことを初心者にもわかりやすく」をモットーに各メディアにて不動産記事を多数執筆。